【LS-DYNA×AIで広がる自動車開発の可能性】次世代CAEを支えるHPC
みなさん、こんにちは。広域システム営業部です。
CAEにAIを組み合わせるという新しい可能性
本日はこちらのテーマについてです。
自動車開発では、安全性や性能を高いレベルで実現するために、さまざまなCAE(Computer Aided Engineering)が活用されています。
特に衝突安全の分野では、車体が衝突した際の変形や応力、ひずみなどをコンピューター上で予測する「衝突解析」が重要な役割を担っています。
代表的なCAEソフトウェアの一つが、LS-DYNAです。LS-DYNAでは、車体形状や材料特性、板厚、衝突速度など、
さまざまな条件を設定して衝突時の挙動を解析できます。
しかし、自動車開発では、一つの設計案を解析して終わりではありません。
例えば、
- 板厚を変更する
- 材料を変更する
- 補強部品の位置を変更する
- 衝突速度や衝突方向を変える
- 部品形状を変更する
など、数多くの設計候補を比較しながら、より安全で、より軽量な設計を検討していく必要があります。
そこで、今後のCAE活用の一つの可能性として考えられるのが、
「LS-DYNAで生成した解析データをAIに学習させ、設計検討を支援する」
というアプローチです。
AIがCAEそのものを置き換えるのではなく、CAEによって蓄積されたデータをAIで活用することで、設計候補のスクリーニングや
解析結果の予測などを効率化できる可能性があります。
さらに、このような環境を構築するためには、CAE解析だけでなく、AI学習やデータ処理までを支える高性能な計算環境が必要になります。
そこで重要になるのが、HPC(High Performance Computing)です。
本記事では、LS-DYNAを中心とした自動車CAEにAIを組み合わせた場合、どのような活用の可能性が考えられるのか
そしてそれを支えるHPC環境について紹介します。

1.LS-DYNA × AI|大量の解析データを「設計」に活かす
LS-DYNAによる衝突解析では、車体の変形や応力、ひずみなど、非常に多くの解析データが生成されます。これらのデータは、
単に一つの解析結果を確認するためだけではなく、次の設計検討に活用できるデータ資産として捉えることもできます。
例えば、
設計条件を変えてLS-DYNAで解析
- 板厚
- 材料
- 補強位置
- 衝突速度
- 衝突角度
- 部品形状
などを変更し、多数の解析ケースを作成します。
↓
解析データを蓄積
- 変形
- 応力
- ひずみ
- 速度
- 加速度
- その他の評価指標
などのデータを蓄積します。
↓
AIに学習させる
設計条件と解析結果の関係をAIに学習させます。
↓
AIによる設計候補の評価
学習したAIモデルを利用し、新しい設計候補について解析結果を予測します。
このようなモデルは、一般にサロゲートモデル(代理モデル)と呼ばれます
AIはLS-DYNAを置き換えるのではなく、補完する。ここで重要なのは、AIによってLS-DYNAを
完全に置き換えるという考え方ではありません。
AIモデルは、学習したデータや対象とする条件によって予測精度が変わるため、最終的な設計判断においては、
高精度なCAEによる検証が重要です。
そのため、例えば、
LS-DYNA
↓
多数の解析データを生成
↓
AI
↓
設計候補を高速にスクリーニング
↓
LS-DYNA
↓
有望な設計を詳細検証
という使い方が考えられます。
実際、NVIDIAのPhysicsNeMoでは、LS-DYNAの衝突解析データを利用し、MeshGraphNetやTransolverなどの機械学習モデルによって
衝突挙動を予測するサロゲートモデルの例が公開されています。2025年に公開された研究でも、LS-DYNAによる150ケースのBIW(Body-in-White)
解析データを用いた機械学習モデルが検討されており、AIによる衝突解析の高速化と設計探索への活用可能性が示されています。
一方で、研究ではフルFE解析と同等の精度にはまだ課題があることも示されています。
つまり、現時点では、
「AIにすべてを任せる」のではなく、「CAEとAIを組み合わせる」
という考え方が重要になります。
2.GNNなどのAIで、複雑なCAEデータを扱う
CAEデータをAIに活用するうえで、重要になるのがデータの構造です。
FEMでは、解析対象を多数の節点(Node)や要素(Element)に分割してモデル化します。
そのため、CAEのデータには、
- 節点の位置
- 節点同士の接続関係
- 要素の構造
- 材料特性
- 変形状態
- 応力・ひずみ
- 時間による変化
など、多くの情報が含まれています。
こうした「構造を持ったデータ」を扱うAIの候補の一つが、GNN(Graph Neural Network:グラフニューラルネットワーク)です。
「FEMメッシュをグラフとして扱う」
GNNでは、データを「ノード」と「エッジ」の関係として表現します。
FEMメッシュを例にすると、
FEMの節点 → AI上のノード
節点間の接続関係 → エッジ
座標・材料・状態など → 特徴量
というように、CAEの構造をグラフとして表現することができます。
これによって、単純な数値データだけではなく、構造物の形状や接続関係を考慮したAIモデルを検討できます。
特に、衝突によって車体全体が複雑に変形するような問題では、このようなグラフベースのAIが活用候補になります。
NVIDIAのPhysicsNeMoでも、LS-DYNAのクラッシュ解析データを対象にMeshGraphNetなどのモデルを利用する構成が公開されており、
FEMメッシュをグラフ構造として扱う考え方が実際に検討されています。
「DeepONetやFNOなどの可能性」
CAEとAIの分野では、GNN以外にもさまざまなアプローチが研究されています。
その一つが、ニューラルオペレーター(Neural Operator)と呼ばれる手法です。
代表的なものとして、
- DeepONet
- FNO(Fourier Neural Operator)
などがあります。
これらは、物理シミュレーションにおける入力条件と解の関係を学習し、シミュレーション結果を高速に近似することを目指す手法です。
ただし、どのAIモデルが適しているかは、解析対象の形状、メッシュ、物理現象、データ構造、必要とする精度などによって異なります。
そのため、実際のCAE×AI環境では、
「AIを導入すること」ではなく、「どのデータに、どのAI手法を適用するか」
を検討することが重要になります。
3.CAE×AIは衝突解析からマルチフィジックス、LLMへ
AIとCAEの組み合わせは、衝突解析だけに限定されるものではありません。
自動車開発では、電動化やソフトウェア化が進むことで、扱う物理現象やデータも複雑になっています。
例えばEVでは、
- 構造
- 熱
- 流体
- 電気
- 電磁
- バッテリー
など、複数の物理現象を考慮する場面があります。
こうした複数の物理現象を組み合わせて解析するマルチフィジックスの領域でも、AIによる解析結果の近似や設計探索への活用が検討されています。
例えば、計算負荷の高い解析の一部をAIによるサロゲートモデルで近似することで、設計候補をより多く比較するといった使い方が考えられます。
LLM・RAGによる「解析技術者支援」
さらに、生成AI・LLMをCAE環境に組み合わせる可能性も考えられます。
ここでのLLMの役割は、LS-DYNAそのものの数値計算を高速化することではありません。
例えば、
- 過去の解析事例を検索する
- 類似した解析条件を探す
- 過去の技術報告書を検索する
- 複数の解析結果を比較する
- 解析結果の概要を整理する
- 技術資料や設計資料から必要な情報を探す
といった技術者の情報活用を支援する役割です。
さらにRAG(Retrieval-Augmented Generation)を組み合わせれば、社内に蓄積された技術資料や過去の解析データなどを検索し、
その情報をもとにLLMから回答を得る仕組みも検討できます。
将来的には、
CAEによる解析
+
AIによる予測・設計探索
+
LLM/RAGによる技術情報活用
という組み合わせによって、解析計算だけではなく、設計者・解析技術者の業務全体を支援する環境へ発展する可能性があります。
4.CAE×AIの実現を支えるHPC
ここまで紹介したようなCAE×AIの環境を考えると、重要になるのが計算基盤です。
AIを活用するためには、AIモデルを学習するためのデータが必要です。
そして、そのデータを生成するためには、LS-DYNAなどによる大量のCAE解析が必要になる場合があります。
つまり、
AIを活用するために、CAEの計算能力も重要になる
ということです。
「想定されるCAE×AIワークフロー」
例えば、次のような開発サイクルが考えられます。
STEP 1 LS-DYNAによる大量解析
設計条件を変えながら、複数の衝突解析を実行。
↓
STEP 2 解析データの加工
変形、応力、ひずみなどのデータをAI学習用に整理。
↓
STEP 3 GPUによるAI学習
GNNなどのAIモデルを学習。
↓
STEP 4 AIによる設計候補のスクリーニング
多数の設計候補について、AIによる高速な予測を実施。
↓
STEP 5 LS-DYNAによる詳細検証
有望な候補について、再びLS-DYNAで詳細解析。
↓
STEP 6 解析データを蓄積
新たな解析結果を次のAI学習に活用。
このような、
「解析 → 学習 → 探索 → 検証 → 追加解析」
というサイクルを構築することが、CAE×AIの一つの可能性です。
「CPU・GPU・メモリ・ストレージをどう考えるか」
この環境では、すべての処理に同じ種類の計算資源が必要になるわけではありません。
| 用途 | 主に考慮したい計算資源 |
|---|---|
| LS-DYNA | CPU、メモリ、ストレージ、並列計算性能 |
| 解析データ処理 | CPU、メモリ、ストレージ |
| GNNなどのAI学習 | GPU、GPUメモリ、システムメモリ |
| AI推論 | GPUまたはCPU |
| LLM/RAG | GPU、GPUメモリ、システムメモリ、ストレージ |
| 解析データ保存 | 大容量・高速ストレージ |
そのため、CAEとAIを組み合わせる場合には、
「CPUが一番速い構成」や「GPUを一番多く搭載した構成」
が必ずしも最適とは限りません。重要なのは、
どの解析を、どの規模で、どの程度の頻度で実行するのかを整理し、その用途に合わせて
CPU・GPU・メモリ・ストレージを設計することです。
5.アプライドが考える「CAE+AI」を支えるHPC
CAEとAIを組み合わせることで、HPCの役割も変わっていく可能性があります。
従来のHPCは、
「CAE解析をより速く実行するための計算機」
という側面が強いものでした。
これからは、
「CAEデータを生成し、AIで活用し、設計検討につなげるための計算基盤」
という考え方も重要になると考えられます。
例えば、
LS-DYNA
大量の解析データを生成
↓
Pythonなど
データ処理・前処理
↓
PyTorch / GNNなど
AIモデルを学習
↓
AIサロゲートモデル
設計候補を高速にスクリーニング
↓
LS-DYNA
有望な設計を詳細検証という環境です。
さらに、将来的には、
CAE × AI × LLM/RAG
という形で、解析・設計探索・技術情報活用を一つの環境で支援することも考えられます
「より速く計算する」から「より多くの設計を試す」へ
HPCの価値は、単純に一つの解析を速く終わらせることだけではありません。
より高い計算性能を活用することで、これまで計算時間の制約から十分に比較できなかった設計候補について、
「より多くのケースを解析する」
という使い方も考えられます。さらに、その大量の解析データをAIに活用することで、
「より多くの設計候補を効率的に評価する」
という新しい開発サイクルにつなげられる可能性があります。
【AI×CAE】設計開発のパラダイムシフト:サロゲートモデルがもたらす次世代シミュレーションの未来
10.CAEとAIを組み合わせる、その先へ
AIによってCAEが不要になるわけではありません。
むしろ今後は、CAEがデータを生み出し、AIがそのデータを活用する
という関係が重要になっていくと考えられます。
例えば、
LS-DYNAで解析する
↓
解析データを蓄積する
↓
AIが学習する
↓
AIで設計候補をスクリーニングする
↓
LS-DYNAで詳細検証する
というサイクルです。
さらにGNNやニューラルオペレーター、マルチフィジックス、LLM/RAGなどの技術を組み合わせることで、
CAEの活用範囲がさらに広がる可能性があります。
その一方で、AIモデルの精度や適用範囲、学習データの品質など、検討すべき課題もあります。
だからこそ重要なのは、単純に「AIを導入する」ことではありません。
現在のCAE環境に対して、AIをどこに組み合わせると効果が期待できるのか。
そして、
そのためにどのような計算環境が必要なのか。
を、実際の解析規模や運用方法から考えることです。
アプライドでは、LS-DYNAなどのCAE用途をはじめ、NVIDIA GPUを活用したAI学習・推論、LLM/RAGなど、
目的や処理内容に応じたHPC・GPUワークステーションの構成をご提案可能です
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